私が初めてヨーガを習った先生はDr. Ramesh Bijlani (ラメシュ・ビジュラニ先生)です。
ビジュラニ先生は、All India Institute of Medical Sciences (AIIMS):インド・デリーの大病院にて医師および教授として、循環器疾患・心疾患と糖尿病に関係した栄養学の研究と指導に尽力された先生であり、インテグラルヨーガの指導者。心身医学の最新の知見とヨーガに基づく「ライフスタイル・モディフィケーション・コース(生活習慣改善プログラム)」を提供する患者ケア施設をAIIMSに創設した方でもあります。
初めてヨーガを教えていただいた先生が、医師であったことは大変幸運なことでした。まずは、解剖学の基礎をみっちり習うことができました。その頃はYOGAをまったく何も知らなかった私。今思うとスピリチュアルな方向性にも傾きやすいであろうヨーガを、つねに科学的な知見に基づいて教わることができたというのは本当に幸運なことでした。そして、奥深いヨーガの哲学を私のような英語もままならなかった者にでも理解できるような大変分かりやすく、簡潔なことばで教えてくださいました。
ビジュラニ先生の著書の中でヨーガと現代医学の出合いについて以下のように述べられています。
現代医学は1900年~1950年の間に壮大な進歩を遂げ、いくつかの感染症はワクチンと抗生物質の助けを借りて克服することができるようになりました。
画像技術と臨床生化学の発展により診断制度が各段と向上し、手術も安全なものになりました。
その結果、寿命は大幅に伸びたものの、現代の人々は慢性的なストレスによる疾患や生活習慣病に代表される別の種類の病に悩まされています。
そうした疾患は、感染症や栄養失調とは違って、ひとつの明確に識別可能な要素の有無に起因せず、何十年にもわたってゆっくりと蓄積したダメージの結果によって引き起こされます。精神的ストレスをメインとした不健康な生活習慣によって、少しずつ静かに私たちにダメージを与えます。
そこで、病気の予防と管理のために、精神的ストレスを克服するための健康的な生活習慣と対処法の探求が始まりました。
探求のうえに人々が見つけたのは、精神的な平和を持続させてくれる「素晴らしいライフスタイル」と「処方箋」、その両方を持ち合わせるのがヨーガのような古代の智慧だということでした。
ヨーガのような心身アプローチを現代医学に取り入れることについて次々に多数の疫学的、臨床的実験・研究が行われ、2000年までには心と体の関係は強力な科学的基盤を持つまでになりました。
ラリー・ドッシー(Larry Dossey)によると、1950年に現代医学は物理医学の時代から、心身医学の時代に入ったと述べられています。
その新たな次元はヨーガの領域に大きく依存しています。
このようにして古代の叡智が現代医学の一部になりました。
近年の西洋科学と東洋科学の融合の実例としては、米マサチューセッツ大学医学大学院教授であるジョン・カバットジン博士が同大学にストレス低減センターを立ち上げ、西洋科学とマインドフルネスを統合させたマインドフルネスストレス低減法を教え始めたことが挙げられます。
そこで博士は、ヨーガをするということは、「心と体を結び付ける」ことであり、「心と体が一体となった経験をする」ことであると述べていて、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)において、注意を集中しながら行う「ヨーガ瞑想法」は、「ボディースキャン」、「静座瞑想法」とともに、ストレス・クリニックの瞑想法の三本柱の一つとなっています。
また、1950~60年代にかけて、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーはヨーガの深淵を誰にでも分かりやすく世界中に教え広めた存在として偉大な功績を残されています。マハリシ師はインドのアラハバード大学で物理学の学位を取得後、ヴェーダ研究の第一人者であり、人間の意識の研究で最先端を行っていたブラフマナンダ・サラスワティ師のもとで修業する機会に恵まれ、ヒマラヤをはじめインド各地で修業を極めたのち、師から学んだ瞑想を人々に教えるためインド各地を歩いて回ったそうです。マハリシ師の教える瞑想は、シンプルで誰にでも簡単に行うことができ、宗教がまったく関係ない。というのが特徴です。山にこもって修行する必要も、座禅を組む必要も、菜食主義でなくても、階級も関係ない。深い静寂の場所は誰の心にでも存在し、どんな教育を受けたかは関係ない。宗教も、年齢も、性別も、職業も、ライフスタイルも関係ない。(私はこの考えが大好きです!)
そして、マハリシ師の成し遂げた最も大きな功績が、瞑想の指導に科学を持ち込んだ点です。1959年にはじめてアメリカを訪れると、科学者たちに呼びかけて、神経生理学の観点から自身が教え広める瞑想であるTM(Transcendental Meditation)を研究することを目指しました。最初の研究は1968年、ハーバード大学メディカルスクールとUCLAメディカルスクールで行われ、実験結果は1970年に雑誌『サイエンス』、1972年に『サイエンティフィック・アメリカン』に掲載されました。以降、今もなお科学的研究は行われ続けてきています。2017年に行われた実験で、「TMは簡単に学べる」ということが科学的にも証明されました。TMをはじめてから1カ月しか経過していない人でも、5年続けている人と同じレベルの経験ができていることが脳波などから判明したのです。
Dr. Bijlaniは「Yoga is a way of life.(ヨーガは生き方である)」という点を常に重要視されます。ヨーガは決してアーサナ(ポーズ)と同義ではなく、生き方そのものであり、日々の生活の中にいつもYogic Attitude(ヨーガの心がまえ)を取り入れることこそが大切であると教えてくれました。
瞑想をすると自然とそうしたヨーガ的態度が自動的に培われていきます。具体的には、思慮深さ、創造性、自他への優しさ、合理性、理性などです。
瞑想を含むヨーガの叡智が教えてくれる心と体へのホリスティックなアプローチは、私たちが現代社会の中で抱える様々な問題の解決策になると確信します。
2022.12.10 更新
